平成29年度(2017年度)税制改正 非永住者の課税所得の範囲の見直しについて解説

3月27日、2017年度税制改正関連法案が参議院本会議で可決・成立しました。所得税の分野では、配偶者控除・配偶者特別控除の見直しが大きなポイントとなるでしょう。国際課税の分野では、タックスヘイブン対策税制の見直しや、相続税・贈与税における国外財産の納税義務の範囲の見直しが決まっております。

さて今回の記事では、所得税で改正が行われた「非永住者の課税所得の範囲の見直し」について注目してみます。日本国籍を有する方は非永住者に該当することはありませんが、来日した外国人が日本で働いている場合は、非永住者に該当するケースが多くあります。以下をお読みいただいて、税制改正のポイントをしっかりと押さえていただければ幸いです。

非永住者の定義について

今回改正が行われた「非永住者」の定義について、今一度確認しておきましょう。

以前に居住者・非居住者の判定方法の記事で解説いたしましたが、所得税法上、まず納税義務者は「居住者」と「非居住者」の二種類に分けらます。そのうち「居住者」については、さらに二区分に分けられており、「永住者」と「非永住者」に分かれることとなります。

永住者と非永住者について、その定義を要約すると、下記のとおりとなります。

居住者のうち:

①永住者

非永住者以外の居住者を指します。

②非永住者(今回の税制改正の対象)

居住者のうち日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に日本国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年以下である個人を、非永住者といいます。

※上記はいずれも「居住者」であり、あくまで日本国内に住所があるか、または現在まで引き続いて1年以上居所がある個人であることが前提となります。非居住者の確定申告についてはこちらの記事もご参照ください。

非永住者の課税所得の範囲について

非永住者の課税所得の範囲については、2014年度税制改正において、現行の規定が整備されました。2017年分以降の非永住者の課税所得の範囲は、下記のとおりとなります。

非永住者の課税所得の範囲

①国外源泉所得以外の所得
②国外源泉所得で、国内において支払われ、または国外から送金されたもの

①については、基本的に国内において生じた所得について課税されるということです。ただしご留意いただきたいのは、国内で生じた所得のほか、「国内源泉所得および国外源泉所得のいずれにも属さない所得」も含まれてくるということです。(詳細は次の項目でご説明いたします。)
②については、海外で生じた所得、すなわち海外預貯金等の利子や、海外にある不動産の貸付・譲渡による収益などのうち、日本国内において支払われたものまたは日本国内に送金されたものに対しても、課税されるということです。

外国金融商品取引所で譲渡した海外上場株式の譲渡所得について

2017年度税制改正における非永住者の課税所得の範囲の見直しのなかで、「海外上場株式の譲渡所得」の取り扱いが、ひとつポイントとなってきます。

現行法では、海外上場株式の譲渡所得は、国外源泉所得の範囲には含められておりません。すなわち、前述の課税所得の範囲の説明に照らすと、非永住者の課税範囲に含まれる「国外源泉所得以外の所得」に該当してしまうのです。したがって、2017年度税制改正が可決する前までは、非永住者が得る海外上場株式の譲渡所得について、日本で課税されることになっていたのです。

これは、日本で働く外国人にとっては、大きな障壁となりえます。なぜならば、現在住んでいる日本とは全く違う国で譲渡した株式について、その対価が国内において支払われているか(又は送金されているか)を問わず、全て課税されることになっていたからです。

海外上場株式の譲渡所得の2017年度税制改正後の取り扱い

海外譲渡株式の譲渡所得の取り扱いについては、平成29年税制改正大綱において、下記のように記載されています。

非永住者の課税所得の範囲から、所得税法に規定する有価証券(過去10年以内において非永住者であった期間内に取得したもの(2017年4月1日以後に取得したものに限る)を除く。)で次に掲げるものの譲渡により生ずる所得(国内において支払われ、又は国外から送金されたものを除く。)を除外する。

(1)外国金融商品取引所において譲渡されるもの

(2)国外において金融商品取引業等を営む者への売委託により国外において譲渡されるもの

(3)国外において金融商品取引業等を営む者の国外営業所等に開設された有価証券の保管等に係る口座に受け入れられているもの

カッコ書きが多く非常に読みにくい内容となっておりますが、まず「過去10年以内において非永住者であった期間以外」に取得した海外上場株式の譲渡所得については、国内払い・国内送金が行われない限り、課税所得の範囲から除かれることになります。例えば、外国人が日本赴任前に海外上場株式を購入し、日本の非永住者となった後にその株式を売却したケースが想定されます。

では、過去10年以内において非永住者であった期間内に取得した海外上場株式についてはどうなるでしょうか。このケースでは、下記のいずれかに該当する場合は課税所得の範囲に含まれるため、留意が必要です。

①非永住者の期間内での取得で、かつ2017年4月1日以後に取得したものについては、国内払い・国外送金の有無を問わず課税

②国内において支払われ、又は国外から送金されたもの

この改正は、2017年4月1日以降に行う有価証券の譲渡について適用されます。従って、
非永住者が行う2017年1月~3月の海外上場株式の譲渡については、国内支払・国内送金の有無を問わず全て課税されることになるためご注意ください。

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