海外赴任中に日本の持家を売却するときの税金ガイド-譲渡損失の場合も解説

この春から海外赴任が決まった方もいらっしゃることでしょう。海外勤務の期間によっては、国内にある持家やマンションの売却を予定している方もおられるかもしれません。税法上、1年以上の予定で海外に居住する予定の方は、「非居住者」に区分されることとなります。今回は、非居住者に該当する方が国内にある不動産を譲渡する場合の課税関係について解説いたします。また海外赴任のほか、海外移住の方もご参考になさってください。

海外赴任中に持家を売却した場合、日本で課税されるのでしょうか?

まずは、例をあげてみましょう。

Question
Aさんは日本に本社のある法人で働いていましたが、この4月に任期3年の予定でアメリカ支社への海外赴任が決まりました。Aさんは、渡航後の5月に赴任前まで居住していた土地付建物を、Bさん(個人)に2億円で譲渡することにしています。この場合の税金の取り扱いはどうなるでしょうか?

Answer
Aさんは、任期3年の予定で海外に居住することが決まっておりますので、出国の日の翌日から非居住者に該当することになります。所得税法上、たとえ非居住者に該当する人であっても、国内にある不動産の譲渡による所得については、国内源泉所得として確定申告を行う必要があります。なおこのケースでは、買い手であるBさんが譲渡対価の10.21%を源泉徴収し、税務署にあらかじめ納付することになりますが、確定申告を通じて当該金額は精算されることとなります。

土地・建物等の譲渡については、たとえ非居住者が売却するケースであっても、不動産の所有期間に応じて分離課税の長期譲渡所得または短期譲渡所得として、申告分離課税(確定申告)の対象となります。すなわち、持家売却による譲渡益(収入金額から取得費と譲渡費用・一定の特別控除額を差し引いた金額)について税金がかかってくるということです。

なお、譲渡収入には固定資産税・都市計画税の精算金が含まれる点や、取得費については土地建物の購入代金と取得に要した費用を合計した金額から、建物の減価償却費を差し引いた金額となることに留意が必要です。譲渡損となると思っていたのに、計算してみたら譲渡益となっていた・・ということもあるのです。

課税所得の計算方法はおおむね居住者と同様ですが、注意いただきたい点として、適用される所得控除が雑損控除・寄付金控除・基礎控除の3種類に限られてしまうということが挙げられます。配偶者控除や扶養控除などの制度は非居住者には適用できませんので、ご留意ください。

なお、下記の特例は非居住者であっても適用可能です。

①3,000万円の特別控除の特例
居住用財産を譲渡した場合で一定の要件を満たしていれば、3000万円の特別控除(措置法35)を適用することが可能です。例えば上記の具体例では、Aさんは居住の用に供しなくなってから3年以内に譲渡しているため、その他の要件に合致すれば3000万円の居住用財産の特別控除を適用できます。

②軽減税率の特例
土地建物等を譲渡した年の1月1日時点における所有期間が10年を超えるものを譲渡した場合には、他の所得とは区分して、前述の3000万円の特別控除額を控除したあとの金額について、軽減された税率により所得税が課されることとなります。(措置法31の3)

ただし、賃貸アパート、賃貸マンション、別荘などを売ったケースは、自己が居住していた不動産の売却ではないため、上記の特例の適用はありません。なお事業用不動産を売却した場合に利用できる特例として代表的なものは、「特定事業用資産の買換え特例制度」がありますので、適用要件をご確認されることをおすすめいたします。

海外赴任中に持家を売却したら、売却代金から源泉徴収されるケースがあります

上記の例では、Aさんが持家を売却した際、買い手のBさんがあらかじめ譲渡対価から源泉徴収を行っていました。これはどういうことなのでしょう?

非居住者に対して土地・建物等の譲渡対価の支払いをする者(購入者)は、以下のケースを除き、支払いに当たって10.21%の税率で源泉徴収を行う必要があるのです。居住者から購入する場合はこの制度の適用はありませんので、あくまで売主が非居住者の場合に適用される制度となります。源泉徴収をした金額は、買い手となる方が源泉徴収をした翌月10日までに税務署へ納付することとなります。

源泉徴収が必要とされないケース
①土地・建物等の譲渡による対価の額が1億円以下である かつ
②土地・建物等の購入者が個人であって、自己または親族の居住のために購入したものである

ご留意いただきたいのは、たとえ源泉徴収が行われるケースであっても、依然として譲渡した側には確定申告義務があるということです。譲渡益の金額によっては、源泉徴収された金額が還付になることもありますので、忘れずに確定申告を行いましょう。最近は、海外居住の方の対応をする税理士も増えてきています。

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持家の売却の結果が譲渡損失となる場合は、確定申告は不要となりますか?

持家の売却の結果、「譲渡損失」が発生する場合(収入金額-取得費-譲渡費用がマイナスとなる場合)は、所得が発生しないので確定申告は不要となります。しかし、この場合でも税務署は登記事項の情報から売買があったことを把握しており、確定申告をしない理由に関し「譲渡所得の申告について」というお尋ねが届くことになります。

なお補足として、3000万円の特別控除を受けることにより所得が発生しなくなるケースでは、特別控除を適用するために確定申告を行う必要があります。税務署に特別控除が適用されることを知らせることで、初めて控除が可能となるということです。

また譲渡損失の場合であっても、平成29年12月31日までに住宅ローンのあるマイホームを住宅ローン残高を下回る価額で売却して損失(譲渡損失)が生じたケースでは、一定の要件を満たすものに限り、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得と損益通算することができます。さらに損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰越をすることができます。この特例は、新たなマイホーム(買換資産)を取得しない場合であっても適用することができるため、海外赴任中の方も、要件に当てはまるかどうかチェックしておくことをおすすめいたします。(詳しい要件はこちらをご確認ください。

なお投資物件の場合には、生じた譲渡損失は、同年中に売却した他の不動産の譲渡益と通算することは可能ですが、給与所得などの他の所得と損益通算することはできません。前述の繰り返しになりますが、賃貸マンションなどの投資物件は自己が居住していた不動産の売却ではないことから、譲渡益が出た場合のマイホームの特例(3000万円控除・軽減税率)や、譲渡損が出た場合の損益通算・繰越控除の特例は利用できませんので、ご注意ください。

海外赴任先の国における課税はどうなるのでしょうか?

一般的に、海外赴任先の国において居住者と判定されるケースでは、赴任先の国においても国内の持家の売却益について納税義務が生じます。その場合、赴任先である居住地国において一定の要件を満たせば外国税額控除の適用が受けられますので、二重課税された部分は居住地国の確定申告を通じて控除することが可能となります。

なお外国税額控除の適用については、各国の税法の規定によりますので、現地で専門家のアドバイスを受けることをおすすめいたします。

海外赴任中に持家を売却した場合の住民税はどうなりますか?

住民税は1月1日現在において、日本に住所を有する個人に対して課税されることとなります。したがって、譲渡した年の翌年1月1日において日本に住所を有していないようであれば、不動産の譲渡所得に対して住民税の課税が行われることはありません。

上記をお読みいただいて、非居住者が国内にある不動産を売却したときの税金について概要が把握できたでしょうか?また下記の記事もぜひご参考になさっていただければ幸いです。

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